動物が外国語でどう鳴くかを知ると、びっくりすることがあります。猫の鳴き声「ニャー」が、世界のどこでも客観的に正しいかというと、そうではありません!実は、各言語での動物の鳴き声の表し方を調べると、その言語の発音の特徴や、同じ動物の鳴き声が他言語の話者の耳にはどう聞こえるかなど、多くのことが理解できます。
動物の鳴き声は「オノマトペ」という言葉で表現されています。まずはその仕組みを見てみましょう!
オノマトペとは?
「ブンブン」「ドカーン」「ガシャーン」「ニャーニャー」など、自然の音を模倣するために作られた言葉を、オノマトペと呼びます。これらは蜂の飛び回る音、大きな爆発音、何かが壊れる音、明け方5時に猫が餌をねだる声など、世の中に実際に存在する音を模倣しようとしている表現です。オノマトペの語源はギリシャ語の「ὀνοματοποιία」で、「ὄνομα(名前) 」と「ποιέω(作る)」の合成語です。実はこの言葉、ギリシャの哲学者であり科学者でもあるアリストテレスによって作られたものなんです!
言語によって音の捉え方は違う
おそらく、ギリシャの猫の鳴き声はピッツバーグの猫の鳴き声と同じでしょうし、リオデジャネイロの通りをうろつく猫やギザのピラミッドを守る猫とも大差ないはずです。では、なぜ言語によって猫の鳴き声が違うのでしょうか?
実はどの言語にも、特有の音のセット(日本語の五十音のようなもの)があり、それぞれの言語には、音の組み合わせルールや、単語内で特定の音を使える位置などの決まりごとがあります。たとえば、「Sp」で始まる英語の単語は沢山ありますが(special, space, spiralなど)、スペイン語の単語は決して「Sp」から始まることはなく、必ず「Esp」となります(especial, espacio, espiralなど)。また、英語にはつづりの途中または最後に「~ng」が入る言葉は無数にあるのに、この音で始まる単語はありません。
つまり、あなたが話す言語は、あなたの耳がどのような音を聞き取ることができるか、そして動物の鳴き声を聞いてどのような音をあてはめるかを左右するのです。逆に言えば、ある言語が豚の鳴き声をどのように表現するか調べれば、その言語にどのような音が存在し、それらの音がどのように単語を形成するか理解する手掛かりが得られるわけです!
例えば英語では、豚が出す音は「Oink[オインク]」と形容され、[オイ]という音の組み合わせが含まれており、これはOil[オイル]という単語と同様に、英語ではよくある音の組み合わせです。しかし、すべての言語に[オ]や[イ]という母音が存在するわけではなく、たとえあったとしても、この2つの組み合わせが許されないということだってあります!ポーランド語で豚の鳴き声は「Chrum[クルム]」で、その最初の音は喉の奥のほうで強く鳴らす[クッ]という音です。そしてこの音は、英語には存在しません!(存在していたとしたら、英語話者の耳にも豚が「Chrum[クルム]」と鳴くのが聞こえていたかもしれません)。
動物の鳴き声が言語によって異なるとしても、それらを比較してみると、意外な共通点が見えてくるものです。豚の鳴き声を表す単語をもう少し見てみましょう。
- 英語:oink
- フランス語:groin
- インドネシア語:ngok
- ポーランド語: chrum
実はこれらの音には、いくつかの共通点が見られます。母音に関してはどれも口の中心近く(つまり舌の位置が高くも低くもない)で出し、「m」「n」「ng」のような鼻音を使い、「k」「gr」のように口の奥の喉に近い部分で子音を少なくとも1つ発音します。ここから「国が違っても、豚の鼻からの音を真似るときには、人間の発声器官(唇、歯、舌、喉)を多かれ少なかれ(音の組み合わせには差異があるとしても)似た方法で使っている」という仮説を導き出すことができます。
世界各国の動物の鳴き声
次のリストからは、いろいろな言語で動物の鳴き声を真似る風変わりな方法だけでなく、オノマトペでどのような音を使うかということもうかがい知ることができます!
| 言⁠語 | 犬 | 猫 | 雄鶏 | 豚 | アヒル | 蜂 | フクロウ | 
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| アラビア語 | هاو هاو (haw haw) | مياو مياو (meo meo) | كوكو كوكو (koko koko) | خنخنة (khankhanah) | واك واك (wak wak) | ززززز (zzzzz) | نُهام (noham) | 
| 中⁠国⁠語 | 汪汪 (wāng wāng) | 喵 (miāo) | 喔喔 (ō ō) | 哼哼 (hēng hēng) | 嘎嘎 (gā gā) | 嗡嗡嗡 (wēng wēng wēng) | 咕咕 (gū gū) | 
| チェコ語 | haf haf | mňau | kykyryký | chro chro | káč káč | bzz | hú hú | 
| 英語 | woof | meow | cock-a-doodle-doo | oink | quack | bzzz | hoo hoo | 
| フランス語 | ouaf | miaou | cocorico | groin-groin | coin-coin | bzzz | hou-hou | 
| ドイツ語 | wau wau | miau miau | kikeriki | oink oink | quak quak | summ | hu-huu | 
| ギリシャ語 | γαβ γαβ (gav gav) | νιάου νιάου (niáu niáu) | κικιρίκου (kikiríku) | χρόιν χρόιν (groin-groin) | πα πα (pa pa) | μπζζζ (bzzz) | κουκουβά (kú-kú-wa) | 
| ヒンズー語 | भौं भौं (bho bho) | म्याऊँ (myaun) | कुकड़ुकू (kukaduku) | ओई ओई (oi oi) | कैं कैं (kain kain) | बर्र (barr) | ऊक ऊक (uk uk) | 
| ハンガリー語 | vau-vau | miáu | kukurikú | röf-röf | háp-háp | zzzz | huhú | 
| インドネシア語 | guk guk | meong | kukuruyuk | ngok | kwek | bzz | kukuk / ku ku | 
| イタリア語 | bau bau | miao | chicchirichì | oink | qua qua | zzz | -- | 
| 日本語 | ワン (wan) | ニャー (nyaa) | コケコッコー (kokekokko) | ブー (buu) | ガーガー (gaagaa) | ブーン (buun) | ホーホー (hoohoo) | 
| 韓国語 | 왈왈 or 멍멍 (walwal or mung mung) | 야옹 (ya-ong) | 꼬끼오 (kko-kkee-oh) | 꿀꿀 (kkool-kkool) | 꽥꽥 (kkwack-kkwack) | 윙윙 (wing wing) | 부엉 부엉 (bu-eong bu-eong) | 
| ポーランド語 | hau hau | miau miau | kukuryku | chrum chrum | kwa kwa | bzz | hu hu | 
| ポルトガル語 | au-au | miau | cocoricó | óinc-óinc | quá-quá | bzz | uuh-uuh | 
| ロシア語 | гав-гав (gav-gav) | мяу-мяу (mjau-mjau) | кукареку (kukareku) | хрю-хрю (khryu-khryu) | кря-кря (kryа-kryа) | ж-ж-ж (zh-zh-zh) | ух-ху-ху (ooh-hoo-hoo) | 
| スペイン語 | guau | miau | quiquiriquí | grrr | cuac | bzz | uh uh | 
| タイ語 | โฮ่งๆ (hong hong) | เหมียวๆ (meow meow) | เอ้กอี๊เอ้กเอ้ก or กุ๊กๆ (ek ee ek ek or goog goog) | อู๊ดๆ (ood ood) | ก้าบๆ (gaab gaab) | หึ่งๆ (hueng hueng) | ฮู ฮู (hoo hoo) | 
| トルコ語 | hav hav | miyav | ü ürü üü | oink | vak vak | vızz | bubuh / gugguş | 
| ウクライナ語 | гав-гав (hav-hav) | м'яв-м'яв (myav-myav) | кукуріку (kukuriku) | хрю-хрю (khryu-khryu) | кря-кря (krya-krya) | бж-бж (bzh-bzh) | пу-гу (pu-gu) | 
| ベトナム語 | gâu gâu | meo meo | ò ó o | ụt ịt | cạp cạp | zzz | cú cú | 
オノマトペって面白い!
動物の鳴き声は、世界各国の言語がどのように音を組み合わせているのか、そして私たち人間が森羅万象をどのように捉えているかを知ることができる、楽しく深いテーマなのです!
