「Duolingoへの質問」へようこそ。このコラムでは言語学習者へのアドバイスをご紹介します。過去の記事はこちらをご覧ください。
学習者の皆さん、初めまして!私はライアン・ピーターズと申しまして、Duolingoで働く学習科学の専門家の一人です。私の専門は、脳の学習の仕組みや学習に至るまでのプロセスで、Duolingoのコースや機能の有効性についても多くの調査研究を行っています。今回の「Duolingoへの質問」では、私が得意とする分野の質問にお答えします!
今週の質問
これは良い質問ですね!人間の脳は、記憶を保存したり何かに注目したりするだけでなく、あらゆる刺激に対し反応するようにできています。そして、ある種の「コントロール」を行う機能も備えています!
あなたが感じる以上に注意力をフル稼働している状況を、例として挙げてみましょう。例えばセルフサービス式のカフェ。店内は、顧客、店員、メニュー、飲み物の匂い、壁の絵など、様々な刺激でいっぱいです!しかしあなたが注文態勢に入ると、視線がメニューにフォーカスし、それ以外のものは背景としてフェードアウトしていく。そしてあなたはバリスタに視線を移し、注文を告げる。続いて支払いのため財布に注意を向けた瞬間、友人があなたの名前を呼び、気を取られる。振り返ったあなたはその友人に「ちょい待って」と言い、バリスタの方に注意を戻し支払いを終える。
このように、豆乳入りのアイスモカチーノを無事にゲットするには、他のものを排除しながら一つのことに向かって注意を集中していく必要があります。まずメニューに、次にバリスタに集中し、その間はカフェで自分の周りに起こっていることを無視しなければなりません。あなたは無意識のうちに特定の対象に注意を向けていましたが、友人が声をかけてきたときには思わず注意をそらしてしまいましたね。やれやれ!
注意を向けたとき、脳は何をしている?
注意とは、一つのことに深く集中し、他のことを排除するプロセスです。注文の順番が回ってきたとき、あなたの脳はバリスタに意識を集中し、店内の他の要素を黙殺しました。脳はあなたの興味の対象をとらえて記憶し、その情報は脳の色々な領域に伝わって処理されます。注意を向けることによって、脳には実際に物理的な影響が生じ、それは脳スキャンでも確認できます。
注意という行為には、情報過多を避け、新しい情報、面白い情報または役に立つ情報を優先することであなたの負荷を減らし、学習をしやすくする働きがあります。何かに注意を向けると脳内にシグナルが発生するため、将来にもそれを覚えている可能性が高くなります。
これは、Duolingoのコースで取り扱うトピックを1回のレッスンにつき数個に絞っている理由でもあります。新しい語彙なり分数の間違いなり、学習者に気づいてもらい、注意を向けてもらいたい項目がどのレッスンにもあるわけです。もし学習者がそれに気づいてくれなければ(先ほどの例で言えば、メニューではなく壁の絵に集中してしまった場合)、そもそもそのトピックを記憶することも、学ぶこともできません!
脳は、何に注意を向けるかをどうやって決めている?
また、「何に注意を向けるか」と同じくらい重要なのは、おそらく「何を無視すべきか」ということでしょう。これを人間の脳はどうやって知るのでしょうか?
私たちはこれまでの人生で、状況に応じて何に注意を向け、何を無視するべきかを脳に教え込んできています。例えば大きなもの、明るいもの、こちらに迫ってくるものなどに自然と注意が向くのは、それが私たちの生存を左右しうるからです。また、もっと短期的な目標に到達するために注意力が鍛えられることもあります。例えば最も頭が冴えるのはどの種類のコーヒーかとか、ブレーキをどれくらの強さで踏めば緩やかに止まることができるかといったことです。
それでは、脳が注意を向けずにはいられないような特徴には、どんなものがあるのでしょうか?
- 習慣化したものや、慣れ親しんだもの。人間の脳には、一度習慣を身につけると、それを断ち切るのが非常に難しいという習性があります。一定の状況で繰り返し何かに注意を向けると、脳はそれを習慣として覚えます。
- 目立つもの。脳は、非常にわかりやすいもの、視覚的に強調されたもの、他と極端に違うものなど、とにかく目立つものに対し自然と注意を払います。
- 報酬が得られるもの。私たちの脳は「ごほうび」が大好きなため、注意を向けることによって何らかの見返りが得られると、脳は「これには注意を向ける価値がある」と判断します!
- パターン。人間の脳は常に統計的な推測を繰り返し、自分を取り囲む世界に存在するパターンを探しています。
- 重要だと思われること。指示が与えられたり、特定の文脈があったりする状況下では、脳はこれらに基づいて注意を向けるようになります。
注意力を高めるには?
注意という行為の大部分は脳のもともとの機能に依存してはいますが、それでも注意力を強化するためにできることは沢山あります!
- 自分の調子が一番いいのはいつかを知る。朝型か夜型か?静かなほうが集中できるか、それともある程度の雑音があったほうが良いか?どんな時に最も集中できるのかを把握し、それを利用しましょう!自分に合った時間帯に学習できるよう、予定を調整してみてください。なお、詰め込みが長期的な学習に向かないのはそのためです。自分のコンディションがどうであろうと、残った時間で勉強せざるを得ないからです!
- 学習をゲームにしてしまう!「よく学び、よく遊べ」に尽きます!退屈な会議や講義のように注意力をキープするのが難しい場面では、注意力をキープすること自体をゲームとしてとらえ、楽しんでしまいましょう。例えば、25分間書いて5分間休憩するというポモドーロ・テクニックが好きな作家は多くいます。
- 継続的な学習習慣を身につける。脳が重要なことにだけ集中できるよう、気が散るものを減らし、慣れた環境で学習できるようにしましょう。同じような場所で同じ時間帯に勉強するよう心がけ、他の作業に手を出す癖をコントロールする方法も学びましょう。
- 「注意力のセルフチェック」をする。何があなたの注意力を妨げるのか?これを知るために、あなたが簡単に無視できるものと、逆に目前の作業から引き離してしまうものを洗い出してみてください。私の場合、それはテレビです。どんな内容であろうと、テレビからは顔をそむけることができない😅
- スマホは自分のために使う。携帯電話はあなたの役に立つためにあるのであって、邪魔をするためにあるのではありません!内蔵されている機能を色々試して、注意力サポートに役立つツールを見つけましょう。例えば設定メニューで、Duolingoの練習リマインダーを自分に合った時間に変更してみてください。また、集中したいときには「応答不可」モードにしたり、特定のアプリの通知を無効にしたりするのも良い方法です。習慣や環境を大きく変えることはできなくても、自分でコントロールできる小さなことは色々あるはずです!
- 学習時間を意識的に使う。Duolingoのレッスンを始めたり、ギターを取り出したり、はたまた鉛筆を削ったりする前にいったん立ち止まり、その日の学習の目標は何か、そのために何をすべきかを考えましょう。これはテスト対策の戦略を立てたり、教科書の各章のはじめにある概要を読んだりするのと同じような効果を発揮します。この手法はメタ認知(自分の考えていることを客観的に捉え評価すること)と呼ばれるもので、この意図的な行動によって、自分が何に注意を向けたいのかを明確にすることができます。
重要なことにこそ集中を!
新しい情報を前に、重要な部分を的確に把握しようとすれば、注意力こそが(そして注意散漫にならないことが)鍵となります。そして「目標を遠ざけてしまうような誘惑は何か?」を自覚することも、学習環境を整え、より集中しやすいコンディションを作るのに有効です。ぜひ試してみてくださいね!
言語や学習に関するご質問は、dearduolingo@duolingo.comまでメールでお問い合わせください。