「Duolingoへの質問」へようこそ。このコラムでは言語学習者へのアドバイスを紹介します。過去の記事はこちらをご覧ください。
学習者の皆さん、こんにちは!以前にもこのコーナーを担当させていただいたSharonです。今回は語学教育に携わっている方からいただいたご相談にお答えしたいと思います。私は、学習者の視点から語学について考えるのが好きです。このような質問に回答できることを、本当にうれしく思っています。
今週の質問

「語学の伝道師」さん、あなたの質問は素晴らしいです!Duolingo社員が毎日考えていることも同じです。つまり、「ゴルディロックス難易度(難しすぎず、簡単すぎもしない 、ちょうどよい難易度)とは何か?」、そして「学習者ごとにちょうどよい難易度を与えるにはどうしたらよいか?」ということです。
学習を加速する方法
フランスには次のようなことわざがあります。「Petit à petit, l'oiseau fait son nid(鳥は少しずつ巣を作る)」それが、Duolingoのコースで私たちが取っているアプローチです。私たちは、学習者が理解している内容よりも、少しだけ高度なレッスンと練習問題を提供するようにしています。各レッスンで何らかの新しいトピックを学ぶ場合、既に知っている単語と文法だけで構成された文の中に新しい単語や構文を混ぜ込むという方法を取ります。以下に、新しい単語を教える方法を2つ、お見せしましょう。
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そして、このアプローチの背後には科学があります。約100年前、レフ・ヴィゴツキーという教育の研究者は、「学習とは、最初に助けを借りて何かをし、後でひとりで行うことができるようになるプロセスである」と提唱しました。彼は、「学習者が今まさに習得可能なスキルや知識は『最近接発達領域』にある」と考えました。
その後の研究で、この学習理論は特に語学に応用されました。1980年代、言語学者のスティーブン・クラシェンは、「言語学習の理想的な『燃料』は言語の『入力』(言語を読んだり聞いたりすること)であるが、それはあなたがすでに知っていることを少しだけ超えるよう、慎重に設計されなければならない」と述べました。たとえば、新しい単語や文法は、すでに理解している語彙や表現に加えて、文脈から推測したり、一般的な知識を利用したりすることで理解できます。彼はこの入力を「i + 1」と呼び、「i」はすでに知っている事項、「1」は習ってはいないが推測できるような事項を表しています。あなたの脳は新しい要素を少しずつ知識として吸収していき、やがてそれは「すでに知っていること」の一部となり、次の新しい単語やフレーズを理解する手がかりとなります。(人間の脳は、言語を学ぶプロセスで、このような多くの情報を追跡しているのです!)
したがって、教師にとって重要なのは、生徒の学習の進み具合に応じて「i」と「1」を特定することです。もしあなたが「i +20」のレベルの(つまり生徒がすでに知っていて使える範囲をはるかに超えた)課題を与えてしまったら、生徒はきっと落胆し、フラストレーションを感じるでしょう。そして、諦めてしまうかもしれません。「i +0」の課題、つまり自分が知っていて楽に感じるものだけに集中すると、進歩が停滞したり、退屈したりしてしまいます。そうではなく、簡単すぎず難しすぎないゴルディロックス難易度のスイートスポット、つまり「近位発達領域」が欲しいのです!
Duolingoのレッスンでは難易度をどのように調整する?
Duolingoでは、学習デザイナーが各コースの要所で、どの単語、どのフレーズ、どの文法構造まで教えたかを注意深く追跡しています。これらは、学習者の「i」、つまりすでに学んだことに相当し、次の課題となる新規の単語やフレーズ(つまり方程式の「+ 1」部分)を教えるベースとして使用するコンテンツとなります。各レッスンで紹介する単語は5〜7個程度のため、コンテンツ内に「知らない言葉」があっても、なんとか理解できる範囲にとどまります。また、ヒントを与えることによって、未知の事項が学習者の「最近接発達領域」に入り、きちんと理解できるようにします。練習を重ね、たとえば複数のレッスンで新しい単語を何度も見るうちに、それらの言葉は「あなたがすでに知っていて支援なしに使える事項」として知識に統合されていくのです。
ストーリーやポッドキャストなどの他の機能も、すべての単語を知らなくても理解できるような内容を多く提供できるよう、工夫されています。実は「未知の単語」というものは、文脈の手がかりを使ってその意味を推測する方法を教えてくれる、大事な要素です。たとえばストーリーでは、学習デザイナーは「90/10」の要素配分を狙い、ストーリーの90%をコースで学習済みの語彙と文法で語り、残りの10%に新しい単語やフレーズを取り入れるようにします。ときに推測が難しい新たなトピックもありますが、その場合は、意味を確認するのに役立つような練習問題が表示されます。
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Duolingoポッドキャストにも同様の機能があります。これは自然言語を使っているため、馴染みのある単語と馴染みのない単語が適度に混ざった文章に触れることができ、ホストのナレーションによって中級学習者がストーリーについていくために必要な手がかりを提供しています。
「その人にとって」難しいことを学ぶ
もちろん、同じレッスンを同時にコンプリートしたとしても、何が難しくて何が簡単かは、人によって異なります。そこで学習者を個別にサポートするため、学習パスにはその人のためにパーソナライズされた練習問題が組み込まれています。この練習問題は、ひとりひとりが異なった内容のレッスンを受けるのです。Duolingoアプリは、ユーザーが手こずった問題と簡単にクリアできた問題を追跡しており、これに基づいてパーソナライズされた練習問題は、最も苦手とする単語や文法概念に取り組む良い機会となります。これによって、その人に適した最近接発達領域でより多くの時間を取り、次のレッスンで新たに学ぶ事項に備えて、基礎を固めることができるのです。
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AIの進化に伴い、Duolingoでは現在、自分で難易度を調整できる新しいタイプの練習問題にも取り組んでいます。また、スペイン語やフランス語をはじめとする一部のコースでは、自由形式の作文問題が最後に出題されるストーリーもあります。このような練習問題では、書く分量、使用する単語や文法などを自分で決められるので、自分の「i」を知ることができます。つまり、容易に使いこなせる事項は何か、そしてまだ使いこなせない事項は何かを確認するわけです。
Duolingo Maxの購読者が利用できる ロールプレイ機能(レッスンに関連するトピックについて Duolingoキャラクターとテキストで会話できる機能)でも、この種の難易度調整が行われています。
「難しすぎず、簡単すぎず」が最適解
語学学習では、長期的な目標に向かって粘り強く取り組み、挑戦を続けることが求められます。Duolingoのノウハウが詰まったレッスンならば、常に「最近接発達領域」で学ぶことが可能です!
言語や学習に関する対するご質問は、dearduolingo@duolingo.comまでメールでお問い合わせください。





