Duolingoでチェスを学ぶ皆さんは、チェスのルールの中で複数の言語が飛び交っていることに既に気が付いているかもしれません。たとえば「アンパッサン」はフランス語から、「ブリッツ」はドイツ語から、そしてビショップの「フィアンケット」はイタリア語から来た用語です。
それだけではありません!チェスにはまだまだ、世界各国の言語からの影響を反映した、面白い事実があるんです。チェスの長い歴史は、言語の変化の歴史でもあります。それでは、思わず「へーー!」と言いたくなる面白知識をご披露しましょう!

目次
「チェス」という言葉の語源は?
驚くなかれ、チェス(英語で「Chess」)という名前の歴史は、ペルシャ語で国王を意味する「Shah」から始まっているのです!今日、この単語は英語で [シャー] と発音されています。なぜなら英語では、通常語尾の「h」を発音することはないからです(ただし「Happy」など、語尾以外の「h」は発音します)。
このペルシャ語の単語が、まず、ゲームで王様を表す駒の名前としてアラビア語に取り入れられました。その後ゲームがヨーロッパに伝わると、「Shah」という言葉は2つの進化を遂げます。 まず、その意味が駒だけでなくゲーム全体を指すようなりました。さらに、発音が大きく変化しました。多くの欧州言語で、「Shah」の最後の「h」が、口の中での発音位置が近い「k」(どちらも喉の奥で発音される)に置き換わったのです。「Shah」だったものが「Shak[シャック]」に転じ、これが古フランス語で王手(チェック)を意味する「Eschec」や、その複数形でチェスの駒を意味する「Eschecs」という単語になりました。この複数形のほうが英語に借用された結果、「Chess(チェス)」という言葉ができあがりました!
ただし他の言語のいくつかでは、「チェス」を表す言葉が、別の言葉を起源とし、別のルートで伝わりました。起源となった別の言葉とは、サンスクリット語の「チャトランガ」です。今日でも、「チャトランガ」という言葉は、チェスに似たボードゲーム一般を表す代名詞として世界中で使われています。またヨガを習っている人なら聞き覚えがあるかもしれません。というのも、「チャトランガ」はヨガの四肢で支える杖のポーズの名称でもあるからです!
いずれの場合も、チャトランガは「4つの部分」または「4つの手足」を意味し、チェスにおけるその意味は、インドの軍隊の4つの軍種にさかのぼります(後に詳しく説明します)。チャトランガという言葉はペルシャ語、アラビア語、そしてスペイン語やポルトガル語にも取り入れられました(これはアラビア語とスペイン語・ポルトガル語の長い接触の歴史によるものです)。それぞれの言語に定着するにあたり、その言語の音パターンに合うように発音が多少変化し、最終的に現代標準アラビア語の「شطرنج[シャッタランジ])、スペイン語のajedrez[アヘデレス])、ポルトガル語のxadrez[シャドリス])という言葉が生まれました。
発音の変化の連鎖
このゲームの目的は王(つまりシャー)を追い詰めることであり、ペルシャ語ではこれを「Shah mat(王を困惑させる/驚かせる)」と表現します。この「Shah」の最後の「h」がフランス語の「k」の音として発音されるようになり、その後英語に借用されたため、「Shah mat」⇒「Shak mat」⇒「Chackmate(チェックメイト)」となったわけです!
音の変化は他の言語でも起こりました。すべての言語に「sh」の音があるわけではないので、「チェス」「チェック」「チェックメイト」を表す言葉で「sh」が「s」となった言語もあります!
世界中の言語を見てみると、「チェス」「チェック」「チェックメイト」に相当する言葉がお互いによく似ていることがわかります。この記事の最後にあるリストで確認してみましょう!
チェスの駒の名前の由来は?
チェスの駒の名前も、現代の名前に至るまでに同じような変化をたどってきました。駒の一部は、歩兵、騎兵、象に乗った兵隊、戦車といった軍隊の4つの軍種(チャトランガ)を表すものとして始まりました。もちろん、彼らの仕事は王を守ることです!
ポーン(歩)
「ポーン」は、歩いて進軍する兵隊を表す駒です。英語のスペルは「Pawn」で、フランス語の「Poun」「Peon」「Pehon」から採られたもので、いずれも歩兵を意味します。歩兵やポーンは最も貧しい階級に属するため、これらの駒に「農民」や「農夫」に相当する言葉が使われる言語もあります。 実際、英語の「Pawn」と「Peon(日雇い労働者)」という単語は、いずれも同じラテン語を起源としています!
ナイト(馬)
「Knight(ナイト)」という言葉は、もともと「馬に乗った兵士」を表していました。そこから、兵士ではなく、馬自体を表す単語をこの駒に充てている言語もあります。たとえばスペイン語では、騎士の駒は「Caballo(馬)」と呼ばれています!
ルーク(戦車)
もともとの4要素の一つ「戦車」は、現在では「Rook(ルーク)」と呼ばれる駒になっています。また、全速力で走る戦車のイメージとはかけ離れた、どっしりとした形となりました。ルークは、スペイン語をはじめとする複数の言語で「塔」(たとえばスペイン語では「la torre」)と呼ばれています。
英語の「Rook」は、チェスでしか使われない用語であり、その語源は、謎に包まれています!少なくとも、英語と古フランス語の語源はアラビア語の「Rukhkh」で、ペルシャ語では「Rukh」だったということはわかっていますが、当時の意味を誰も知らないのです!
この謎めいた言葉は、他の言語では「キャスリング」を表す言葉の中に取り込まれています。 この「キャスリング」という手ではキングとルークを同時に動かすので、「ルーク(Rook)」という言葉のかけらが「キャスリング」を表す単語の一部となっている言語もあります。たとえばドイツ語では、ルークが「Turm(塔)」であるにもかかわらず、「キャスリング」は「Rochieren(城を築く)」と呼ばれています!
ビショップ(僧正)
しかし、言語的にも、駒の形においても、最も劇的な変化を遂げたのは「Bishop(僧正)」です。この駒はかつて象に乗った兵隊を表し、チェスの盤上では象の形をしていました。現在でも、象を表す言葉をこれに充てている言語もあります!ロシア語では、まさに「象」を意味する単語「Cлон (Slon)」が使われています。そしてビショップを表すスペイン語「Alfil」とイタリア語「Alfiere」は、アラビア語の象「فيل (fil)」に由来しています。
では、なぜ象が聖職者を表す「ビショップ」になったのでしょうか?兵士を乗せる象としてスタートした後、駒はワニ、狩人、射手などの色々な「怖いもの」に姿を変えたり、また別の文化では使者、将校、走る人などを表す駒となったりしました。古い例としては、1100年代のスコットランドのチェスセットに、ミニチュアの聖職者像がこの駒となっているものがあります。また、この駒が「Bishop」に近い名称で呼ばれていたことを示す最初の書物はアイスランド語で書かれ、「Biskup」として記載されています。その後、1500年代には英語でも「Bishop」が使われるようになり、そして他の言語、たとえばポルトガル語でも「Bispo」という名称が定着しました!
クイーン(女王)
クイーンもまた、時代とともに進化してきた駒です。チェスの祖先であるチャトランガにはクイーンは存在しませんでした。その代わり、キングの相方として、「顧問」や「大臣」を表す「Mantri」と呼ばれるもの(ただし男性)がありました。この言葉は、後にペルシャ語で「Farzin」と呼ばれるようになり、短縮されて「Ferz」と呼ばれるようになった。
なぜ「Ferz」が最終的にクイーンになったのか正確な理由はわかりませんが、おそらく西洋世界におけるチェスの人気と発展に関係があったと思われます。興味深いことに、ロシア語やウクライナ語など一部の言語では、クイーンは今日でも「Ferz」と呼ばれています!チェスの駒が世界各国でどのように呼ばれているか気になったら、記事の末尾の表で確認してみてください!
チェスに興味あり?最初の一手はここから!
チェスの言語的な側面がわかったところで、より知識を深めたいと感じたならば、Duolingoでチェスを学んでみましょう。まったくの初心者から上級者まで、新たな発見があるはずです!
世界各国での「チェス」を表す言葉
チェス | チェック | チェックメイト | |
---|---|---|---|
英語 | chess | check | checkmate |
アラビア語 | شطرنج (shattaranj) |
كش (kesh) |
كش ملك (kesh malek) |
中国語 | 国际象棋 もしくは 西洋棋 (guó jì xiàng qí もしくは xī yáng qí) |
将军 (jiāng jūn) |
将死 (jiāng sǐ) |
チェコ語 | šachy | šach | šachmat |
フランス語 | échecs | échec | échec et mat |
ドイツ語 | Schach | Schach | Schachmatt |
ギリシャ語 | σκάκι (skáki) |
σαχ (sah) |
ματ (mat) |
ヒンディー語 | शतरंज (shatranj) |
शह (shah) |
(शह) मात (shah maat) |
ハンガリー語 | sakk | sakk | sakk-matt |
イタリア語 | scacchi | scacco | scacco matto |
韓国語 | 체스 (cheh-su) |
체크 (cheh-ku) |
체크메이트 (cheku-meh-ih-tu) |
ペルシャ語 | شطرنج (shatranj) |
كيش (kish) |
مات (mot) |
ポーランド語 | szachy | szach | szach-mat |
ポルトガル語 | xadrez | xeque | xeque-mate |
ロシア語 | шахматы (shakhmaty) |
шах (shakh) |
шах и мат (shakh i mat) |
スペイン語 | ajedrez | jaque | jaque mate |
タイ語 | หมากรุก (maak ruk) |
รุก (ruk) |
รุกจน (ruk jon) |
トルコ語 | satranç | şah | şah mat |
世界各国でのチェスの駒の名称
ポーン (歩) |
ナイト (馬) |
ルーク (塔) |
ビショップ (僧正) |
キング (王) |
クイーン (女王) |
|
---|---|---|---|---|---|---|
英語 | pawn | knight | rook | bishop | king | queen |
中国語 | 兵 | 马 | 车 | 象 | 王 | 后 |
フランス語 | pion | cavalier | tour | fou | roi | dame |
ドイツ語 | Bauer | Springer | Turm | Läufer | König | Dame |
ヒンディー語 | प्यादा | नाइट | रूक | बिशप | किंग | क्वीन |
イタリア語 | pedone | cavallo | torre | alfiere | re | regina |
韓国語 | 폰 (pon) |
나이트 (na-ih-tu) |
룩 (ruk) |
비숍 (bi-shyop) |
킹 (king) |
퀸 (kwin) |
ポルトガル語 | peão | cavalo | torre | bispo | rei | dama |
スペイン語 | peón | caballo | torre | alfil | rey | reina (もしくは dama) |