「Duolingoへの質問」へようこそ。このコラムでは言語学習者へのアドバイスを紹介します。過去の記事はこちらをご覧ください。

学習者の皆さん、こんにちは!今回の「Duolingoへの質問」には、Emilie Zuniga博士が回答します!前回は「もしかしたら要らないんじゃないかと思われる単語」について投稿しましたが、今週も、言語学者でありハイパーポリグロットでもある私の専門知識を生かし、ちょっと変わった質問にお答えします。

今週の質問

デュオリンゴへの手紙のイラスト:デュオリンゴに質問です。私はポリグロットを目指す者ですが、難しいことほど張り切るタイプです。なので最も学ぶのが難しい言語がどれか知りたいです。客観的にも「世界最難関」といえる言語はありますか? よろしくお願いします。 「どんと来い!」より

一言で答えれば、「最も学ぶのが難しい言語」を1つだけ選ぶことはできません!もう少し範囲を絞り「日本語を母国語とする人々にとって最も学ぶのが難しい言語は?」と聞かれたとしても、それでも答えることができないのです。やれやれ。

「学ぶのが難しい」言語の例

というのも、ある言語が簡単か難しいかは、客観的な基準ではなく、あなたが既に知っている言語に左右されるからです。ある言語が母語(たとえば日本語)と異なれば異なるほど、その言語を学ぶのが大変になります。

言語習得の難しさを考える上で重要な要素をいくつか挙げるとすれば、

  • 文字体系
  • 存在する音の種類や数と、単語内での音の組み合わせルール
  • 文法の複雑さ(語順、格など)
  • 文化がどの程度異なり、それがどこまで文法に反映されているか

などがありますが、これらの要素を考慮すれば、「難易度選手権」の有力候補となる言語をいくつか挙げることができそうです。

そこで順不同で、学ぶのが大変で、しかも興味深い言語を5つ、紹介します!

日本語

日本語は「日本語族」に属し、しばしば孤立言語(同系統の言語が存在しない言語)とみなされます。唯一、沖縄をはじめとする地域で話されてきた琉球諸語だけは起源を同じくすると考えられており、「日流語族」と呼ばれることもあります。

一方、たとえばヨーロッパの多くの言語や、ヒンディー語、ペルシア語などは「インド・ヨーロッパ語族」という巨大な語族の一部を成しており、特にイタリア語・スペイン語・フランス語などのロマンス諸語はお互いによく似た共通点を持っています。つまり日本語は、それ以外のあらゆる言語から見ると、不思議な点だらけの言語なのです。

日本語はなぜ学習者にとって難しい?

【文字体系】日本語には平仮名、カタカナ、漢字の3つの文字体系がありますが、これは世界的には極めて珍しいことです。しかも「文字をどう発音するか」という仕組みが平仮名・カタカナと漢字でそもそも異なります。平仮名・カタカナは1文字が1音を表し、文字自体には意味がありません。一方、漢字は「表語文字」と呼ばれるもので、文字自体が意味を持ち、1つ1つ覚えない限り発音の予想がつきません。これは、文字体系がアルファベットだけの言語の話者にとっては、あり得ないくらい大変なことです!

【尊敬語・謙譲語】どの言語にも、丁寧さのレベルを変えて表現する方法はありますが、日本語は、他の言語のはるか上を行っています。日本独特の、相手との関係性を尊重する文化が日本語の文法にまで組み込まれており、丁寧さのレベルが「へりくだった立場から使う言葉」「対等の立場で使う言葉」「相手を敬うときに使う言葉」という3段階に丁寧さのレベルに分かれています。どれを相手に使うかによって、呼びかけ方、肩書き、代名詞、さらには動詞の語尾まで変えなければならず、日本の皆さんは自然にこれができても、学習者は目を白黒させているはずです!

ズールー語

ズールー語(Duolingoでも学べます!)は、南アフリカを中心に約1200万人の母語話者がいます。「ニジェール・コンゴ語族」という大きな語族に属する「バントゥー諸語」の1つで、その仲間にはコサ語、スワヒリ語、ショナ語、セツワナ語などがあります。

ズールー語はなぜ学習者にとって難しい?

【発音】ズールー語の発音には、「吸着音(舌打ちの音)」と「声調」という、2つの難題があります。もっとも吸着音はどちらかというと聞き取りやすい音で、識別するだけならあまり苦労しません。ところが自分で発音しようとするとこれが難しく、しかも単語中にある吸着音を出すのは、学習者にとって至難の業です!また、ズールー語にも声調があり、中国語の声調ほどは難しくないと言われているものの、非声調言語(日本語も英語もそうです)の話者にとって、音程の変化だけを頼りにある単語と別の単語を区別するのは簡単ではありません。たとえば「uyacula」というフレーズは「あなたは歌っている」と「彼女/彼は歌っている」の両方の意味を持ちますが、「u~」の音程が低ければ 「あなた 」、高ければ 「彼女/彼 」を意味します。つまり書き言葉としてはどちらも同じで、音調のみによってどちらの意味かを判断するわけです。

【名詞クラス】スペイン語やフランス語を学習中の皆さん、「女性名詞と男性名詞を覚えるだけで頭痛がする」と文句を言う前に、ズールー語をちょっと覗いてみましょう! ズールー語には、名詞クラスと呼ばれる15種類(最大19種類という学者もいます!)の名詞のカテゴリーがあります。名詞がどのクラスに属するかによって、文中の動詞、形容詞、代名詞などの他の単語の形が決まるため、正しく分類できることが明確なコミュニケーションの大前提なのです。文法上の機能に基づいたカテゴリーもありますが(これは簡単なほうです🫣)、単語の意味に基づくカテゴリーもあり、予測は非常に困難です。学習者はまず初めに、名詞とその名詞クラスをセットで覚える必要があります!

コン語(ター語)

コン語(ター語)もアフリカの言語であり、その名前の頭にある「!」は吸着音を表しています!しかしズールー語とは異なり、コン語は「コイサン諸語」というまったく異なる言語グループの、ツウ語族に属する言語です。ボツワナとナミビアで話されており、話者数はわずか3,000人ほどで、絶滅の危機にあるとみなされています。

コン語はなぜ学習者にとって難しい?

コン語には、名詞クラス、膠着(「こうちゃく」と読み、1つの単語にさまざまな接頭辞や接尾辞をつけて意味を付加すること)、声調など、チャレンジに値する要素がいっぱいです。しかしその他にも、知る人ぞ知る有名な特徴があります。それは...

【音の数】言語によって使用する音の種類の数は大変異なるものですが、コン語はこれが世界一多い言語かもしれません。少なくとも4つの「基本の」吸着音があり、これが鼻音化したものや帯気音化したものなどさまざまなバリエーションがあるため、何十種類もの吸着音が存在します。吸着音ではない他の子音も、さまざまな特徴と組み合わせることができ、母音も同様に種類が豊富です。音を1つ1つ数えたらいくつになるかについては議論が分かれていますが、おおよそ100~170種類の音であり、吸着音だけで80種類もあるとされています(!)。ちなみに英語の場合で約44種類、日本語の場合は、比較のために50音をローマ字表記したもので数えてみると23種類となります!

アラビア語

アラビア語は、アフロ・アジア語族のセム語派に属する言語です。中東、北アフリカをはじめ、世界中のアラブ系コミュニティで3億1千万人以上の人々に話されています。

アラビア語はなぜ学習者にとって難しい?

【アラビア語の文字体系】読み書きを覚えるには、おそらくあなたが「アルファベット」と認識している文字とはまったく異なるアルファベットを学ぶ必要があります。

  • 右から左に書く。
  • 文字の形は、単語中のどの位置にあるかによって微妙に(ときにはかなり😅)変わります。たとえば「ج(jiim)」という文字は、私が話すアラビア方言(後述するように、アラビア語の話し言葉は地域によって大きな差があります)では[ジ]に近い音で発音されます。この「ج」は単体ではこのように書きますが、これを使った単語「جار(jaar=隣人)」では少し形が変わり(一番右の文字がそうです)、「ثلج(thalj=雪)という単語でもまた違った形に変わります(一番左の文字)。
  • 発音には母音があるのにスペルでは脱落する単語が多くあるので、文章を読解し、読んだものを正しく発音できるようになるには、あらかじめたくさんの単語を覚える必要があります。たとえば「RD」という英単語を見て、それが「red」なのか「rid」なのか「rod」なのか「rad」なのかを見分けなければならない状況を想像してみてください!これを解読するにはアラビア語の「語根」という仕組みを理解することが重要となり、それによって単語の意味や発音を予測できるようになります。

【音】アラビア語には日本語にはない音が多くあります。たとえば[ハ]に近い音は2種類に分かれ、日本語の[ハ]にかなり近い「ソフトな」発音と、「حبيبي(Habiibii=私の愛する人)」のように喉の奥から出す「力強い」発音があります。この「力強い」ほうの音を出すには、鏡や窓に近づき、口を大きく開けて、ガラスを曇らせてみてください。そう、これがアラビア語の強い[ハ]の発音です。よくできました!(こんな感じで他の音も練習する必要があるんです😅)。

アラビア語のバリエーションの多さ】 アラビア語には数多くの方言があり、アラビア語圏での生活に完全に参加するには、少なくとも2種類のアラビア語を操る必要があります。その2種類とは、日常生活・日常会話で耳にするその地域の口語と、ニュースや文学、公式文書、高等教育などで使用される現代標準アラビア語(MSA)、さらにもう1つ追加するならコーランのアラビア語もあります。コーランはアラブ文化の中心的存在であるため、他のアラビア語が変化しても、コーランに含まれる単語が(そして文法も!)消えることはありません。アラビア語を学習する際、アラビア語圏で友達を作ったり、話の概要を聞き取ったりする程度を目指すのであれば現地の口語・MSA・コーランの単語をすべて覚える必要はありませんが、より深くアラビア語を学びたいのであれば、膨大な量の単語と向き合う覚悟が必要となります!

ジョージア語

カルトヴェリ語族に属するジョージア語は、トルコ、アルメニア、アゼルバイジャンおよびロシアと国境を接するコーカサス地方の国ジョージアを中心に、約400万人に話されています。

ジョージア語はなぜ学習者にとって難しい?

【音】新しい言語を習えばほぼ必ず、聞いたことのない音に出くわすものです。しかしジョージア語には、おそらくあなたが触れたことのない音のカテゴリーが存在します。この音は「放出音」と呼ばれ、「p」「t」「k」などの音を発音するときに同時進行で、口内に空気を溜め勢いよく空気を放出して発生させます。吸着音と同様、聞き取るのは簡単なのに発音するのが非常に難しく、何度も練習する必要があります!

【語順】ジョージア語では通常、主語が最初で、次に目的語、そして動詞が続くという語順で文を構成します。これはSOV語順(主語+目的語+述語)と呼ばれる、日本語と同じ語順です!ところがジョージア語を学ぶ英語話者にとっては、これが悩みの種となりがち。なぜなら英語は典型的なSVO語順(主語+述語+目的語)の言語だからです!

【格の構造】日本語話者にとってジョージア語の文法で最も難解なのは、おそらくという概念でしょう。もっとも、ドイツ語、ロシア語、ギリシャ語などの言語を勉強したことがある人ならば、「主語には主格」「直接目的語には対格」といった方法で格について考えることに慣れているはずです。

ドイツ語、ロシア語、ギリシャ語のいずれでも、そして大昔に格という仕組みがほとんどなくなってしまった英語も含め、動詞が目的語を持つかどうかによって主語の形が変化することは、基本的にありません。たとえば以下の2文を比べると、主語は「The dog」で同じです。(このような言語を「対格言語」と言います。)

  • 動詞が目的語を取らない文の例:The dog runs fast.
  • 動詞が目的語を取る文の例:The dog eats meat.

一方で、この「目的語を取る・取らない」の差が、格による変化の対象となる言語も少なからず存在するのです。つまり目的語を取らない動詞の主語が、目的語を取る動詞の主語とは別の形になります🤯この種の言語では、目的語を取らない動詞の主語の格を、目的語を取る動詞の直接目的語と同じ格とするのが通常です!(このような言語を「能格言語」と言います。)

そしてジョージア語は、その両方の性質を持ったハイブリッド型言語なんです👀!つまり、日本人がジョージア語を学ぶということは、2タイプの格構造の使い分けを学ぶということです。これは途方もない頭の体操になります🧠

どんなに難しい言語でもあきらめない💪

学ぶのが「簡単な」言語を選ぼうと「難しい」言語を選ぼうと、語学を学ぶあなたには言語的・文化的発見に満ちた魅力的な旅が待っています!どんなに難しくても習得が不可能な言語はなく、また、簡単な言語を選んだからといって恥じる必要もありません。言語とは、歴史、知恵、信念をはじめとする、人間の営みの集大成なのですから💚

言語や学習に関するご質問は、dearduolingo@duolingo.comまでメールでお問い合わせください。