現在存在する映画は推定50万本あると言われており、テレビ番組に至っては80万本以上、そして2021年だけで 550の新番組がスタートしました。そして、これらの大部分が、世界中に配信されています(または配信が予定されています)。ストリーミングプラットフォームの普及によりコンテンツのグローバル化はますます加速しており、さらにコロナ禍における外出の自粛要請や禁止令によって、自宅で映画やTV番組を楽しむ人の数も大幅に増加しました。ストリーミング技術と「ステイホーム」の相乗作用により、もはや番組の国籍は問われない時代となったのです。イカゲーム、エカテリーナ、 ケーブルガールズ、そして多数の韓流ドラマや日本のアニメ、例を挙げればきりがありません。また、テクノロジーとパンデミックの他にもう1つ、この潮流に貢献しているものがあります。それは…字幕です!

画面の下部に表示されるこの短い文章は、様々な言語で制作され次々と世に出される新たなコンテンツへの入り口の役割を果たします。語学の学習者にとっても、字幕はありがたいものです。なぜなら、現在学んでいる言語を早速活用して、番組を楽しむのに役立つからです

もちろん、字幕は必ずしも正確ではありません。これを「なぜ、原文通りに正確に翻訳してくれないんだろう?」と疑問に思う視聴者も多いはずです。実は、正確でありながら読みやすい字幕を作成するというのはそう簡単にできることではなく、舞台裏を覗けば、コンテンツを多言語で利用できるようにするのがいかに大変な作業であるかがわかるかもしれません。

はじめに:字幕とキャプションの違いについてひとこと

多くの人が字幕とキャプションを混同していますが、この2つは別物です。キャプションは通常、コンテンツの音声を聞くことができない人々のために作成します。よって、画面上のすべての音声の情報を含める必要があります。一方字幕は、外国語の映画などを別の言語の視聴者向けに翻訳するもので、視聴者は音楽や効果音などの非言語音を聞くことができると想定しています。通常、登場人物の会話の翻訳と、文化的背景を別の言語で確実に伝えることに重点を置きます。

ただし現在では、たとえ番組の言語を理解できたとしてもキャプションのほうを好む 新世代の視聴者が増えており、字幕とキャプションを同等の意味で使用することもあります。この事実には配給会社側も気づいており、最新シーズンのストレンジャー・シングスが採用した鮮やかな字幕がその好例です。

ここで、本来のテーマに戻りましょう。「良い」字幕とは何でしょうか?その条件は多数ありますが、とりわけ重要なのは、元々の言語にある文化的背景や言語のニュアンスを考慮に入れたうえで、会話の雰囲気と意味をあまさず視聴者に伝えるということです。そしてDuolingoでも、ローカライゼーションとグローバライゼーションのチームが類似の作業を行ってアプリ全体を翻訳しており、あの手この手で送られてくるプッシュ通知から励ましのメッセージまで、さまざまな言語を話す人々の心にダイレクトに届くような工夫をこらしています。結局のところ、ハリウッドの字幕制作者がやっているのも同じ作業なのです!

字幕を制作する側からの視点

エヴァ・ライモンディは、Duolingoのシニア・ローカライゼーション・プログラム・マネージャー兼グローバライゼーション・リーダーであり、以前は大手ストリーミング会社で字幕と吹替えに携わっていました。エヴァは次のように説明しています。「字幕翻訳者の仕事は、コンテンツをターゲット言語で自然な形に置き換えつつ、その創造的な意図と正確さとのバランスを取っていくことです。しかしこの作業は、視聴者側の読む速度や、画面の登場人物の話すペースなどによって、さらに複雑になります。」

字幕は、1人の人間だけで作れるものではありません。何事もそうですが、高度なチームワークが必要です!通常、大規模な映画やテレビ番組の字幕を作成する場合、翻訳者が字幕のデジタルファイルを作成し、それを校正者や、時には対象国・地域の責任者がレビューします。

「字幕の制作は、コンテンツのソース言語に精通し、対象地域の文化や方言の違いもよく理解している翻訳者が行います」とエヴァは言います。「彼らはその知識を駆使して、文章のニュアンスを活かしつつ、できるだけ多くの人が容易に理解できるような方策を考えます。」

たとえば、番組に「you all(あなた方全員)」のかわりにいつも「y'all」という表現を使う登場人物がいて、それをどうスペイン語に翻訳するかを考えるとすれば、ラテンアメリカの特定の国や地域でしか使われない表現をわざと選ぶという方法が使えます。これによって、聞いた人は感覚的に「ああ、これは方言だな」と理解できるのです。

上手な字幕というものは、視聴者にその存在を意識させず、視聴体験の一部として自然に溶け込み、機能します。では、目まぐるしく展開するストーリーやアクションにテンポをあわせつつ、言語や文化のニュアンスを捉えた字幕は、どのようにして作られるのでしょうか?それには、多数の工程からなる一連のプロセスが必要となります。

字幕の芸術と科学

映画や番組の字幕について考えるときに最優先とすべき事項は、視聴者の読む速度に合わせることと、字幕と音声を適切に同期することです。これは、視聴者が字幕を通じてスクリーンで起こっていることを理解するのに不可欠であり、これができていない字幕はコンテンツを台無しにしてしまいます。

つまり翻訳者は、翻訳の正確さをどこまで重視するか、そして必要に応じてどこまで短縮できるかのバランスを考えなければならないのです。彼らは、字幕をすばやくスムーズに読めるような配慮をしつつ、原文にもできるだけ忠実でありたいと考えています。

「複数の人が同時に話しているリアリティ番組に字幕を付ける場合、すべての会話を拾うことはできないので、何を伝えるのが最も重要かを判断しなければなりません」とエヴァは言います。「翻訳者は、できるだけ短い表現を選び、なくても大筋に影響しない単語があればそれを省くなどの手を使って、とにかく字幕を速く読めるように工夫することもあります。」

字幕のタイミングよりもさらに重要なのは、字幕に各国の文化をどのように反映させるかという点です。エヴァは、最初のステップは発言の核となる意図を理解し、それを聞く人にとって意味のある方法で言い換えることが必要だと言います。

たとえば、Netflixがドイツで初めて製作した作品「ダーク」は、小さな町で行方不明になった2人の子供の物語を描いています。ドイツ語には、複数の言葉を連ねた複合語を作ることによって複雑な概念を伝えるというユニークな特徴があり(たとえば「schadenfreude」という言葉は、誰かの不幸(schaden)を喜ぶ感情(freude)を表すために使われる表現です)、ときに「翻訳不可能」であるかのように見えます。しかし実際には、翻訳は可能です。コンテンツを元の言語でしっかりと理解し、別の文化を持つ視聴者が理解できるような適切な単語やフレーズを考え出せばよいのです。ドイツ語の「weltschmerz」を例に考えてみましょう。この言葉を直訳すると「世界の痛み」となります。翻訳者はこれを「全世界の悲痛を肩代わりする」と言い換えることで、日本の視聴者の気持ちを揺さぶり、ストーリーの理解を助けることができます。

「字幕を作成するときは、どの情報が最も重要かを評価する必要があります」とエヴァは言います。「コンテンツクリエイターとして、タイミングを重視して音声と字幕ぴったり合わせるべきか?それとも説明を省かず視聴者がきちんと理解できるようにすべきか?その答えは1つではなく、どこでバランスを取るかが全てなのです。」

デュオリンゴのキャラクターのザリが、床にポテトチップスの入った皿を置き、大きな肘掛け椅子に座ってテレビを見ている。彼女の後ろでは、ペットの猫がおもちゃで遊んでいる。椅子の横には大きな本の山がある。

字幕は新しい世界への窓

字幕は、映画などを通じて外国語やその文化を理解するための、素晴らしいツールです。映画「パラサイト」の監督であるボン・ジュノをはじめ、多数の映画製作者が、作品の世界進出の鍵は字幕であると言っています。最優秀作品賞を受賞した後のゴールデングローブ賞受賞スピーチで、彼は韓国語(シャロン・チェの通訳による)で「字幕という1インチの壁を乗り越えれば、もっと素晴らしい映画に出会える」と語りました。もし今、あなたが見ている外国語の番組や映画と字幕が一体となっているのであれば、字幕制作にかかわった翻訳者があなたの言語や文化を深く理解し、良い仕事をしてくれている証拠です。

コンテンツのグローバル化が進む現代において、字幕は他の文化やコミュニティについて学ぶためのツールであり、「リモート」や「オンライン」が当たり前となりつつある今の時代、私たち全員がその恩恵を受けることができます。イカゲームの次にハマるものを探したいとか、単に語学力を試す材料を探したいとか、とりあえず思いついたらテレビや映画の字幕をオンにしてみましょう。エキサイティングな世界があなたを待っているはずです!