先日の「Duolingoへの質問」のコーナーでは、メキシコの先住民族の言語について関心を持つ読者からの質問を取り上げ、すべての言語がそれを書き記すための文字を持っているわけではなく、言語によっては他の言語の文字体系を借用したり、新たに発明したりする必要があるというお話をしました。今回の記事でも、伝統的な表記法を持たない言語では話し言葉と書き言葉の間に違いが生じてしまうという話を取り上げますが、それはほんの氷山の一角にすぎません。実は、今なお多くの言語が表記法を確立する過程にあり、他の言語から転用した表記法を卒業し、コミュニティが自ら選んだ方法で文章を書こうとする試みがなされているのです。

これについて詳しく知るために、私はルイビル大学の比較人文学助教授であるヒラリア・クルス博士に話を聞きました。クルス博士はメキシコのオアハカ近郊出身のチャティーノ語話者で、前述の読者が興味を持つミシュテコ語が話されている地域の近隣の出身です。チャティーノ語は、20世紀になるまではほとんど記録に残されることがなく、この言語を文字に書き起こしたものも存在しませんでした。しかし現在では、クルス博士がこの言語で子ども向けの本を書いています。今回のブログでは、チャティーノ語の表記体系がどのように発展してきたのか、その歴史をご紹介したいと思います。

メキシコのチャティーノ語および先住民言語

今日、メキシコ全土では何百もの先住民族の言語やその方言が話されています。チャティーノ語とミシュテコ語は、オアハカおよびその周辺で話されている多数の言語の一部で、いずれもオトマンゲ語族と呼ばれる大きな言語ファミリーに属していますが、これらは非常に遠い関係にあり(たとえて言うなら、スペイン語とノルウェー語ほどにかけ離れています!)、今日では言語学的な共通点はほとんどありません。ただし、植民地化や差別という歴史を持つという点で共通しています。

「『識字率の向上』という大義名分は、西洋の国家が先住民の言語を排除するために使ってきた道具の一つです」とクルス博士は説明します。「それは先住民の言語を根絶やしにするために、今も使われ続けています。」

ヒラリア・クルス博士の写真。彼女はカメラを見つめ、微笑んでいる。長くて波打つ黒髪で、青色の大きなイヤリングを身につけている。
ヒラリア・クルス博士

チャティーノ語の場合、その言語学的な記録の大半は、20世紀になってから、しかも非常に限定された用途のために行われたにすぎません。クルス博士によると、「メキシコは、先住民言語に関する研究に資金を出そうとしませんでした。2000年代まで、これらの言語で行われたプロジェクトのほとんどは、サマー・インスティテュート・オブ・リンギスティクス(SIL)による聖書翻訳だったのです!」

その結果、英語圏から来た宣教師らによって、スペイン語を基にした表記法が編み出されました。しかしながらチャティーノ語はスペイン語とはまったく異なるため、クルス博士のようなチャティーノ語話者にとってはかなりの違和感を感じる表記も数多くありました。「チャティーノ語には、舌端音、声門閉鎖音、鼻音があります」とクルス博士は言います。「スペイン語には存在しないこれらの異なる音を、どうやって表すというのでしょうか?」

チャティーノ語の新しい表記法

最大の課題の一つは音調を表現することでした。チャティーノ語は中国語のように声調言語であり、中国語の4~5種類に対し、チャティーノ語にはなんと14以上の声調があるのです。

クルス博士は、当時コミュニティには「声調の扱いについての前例がほとんどありませんでした」と振り返っています。「SILは数字を使って表していましたが、コミュニティの人たちには評判が良くありませんでした」。では、彼らはどうやって表すことにしたのでしょうか?

「私たちは、(声調を)アルファベットの文字で表すことに決めました。モン語をお手本にしたのです!私たちの体系は、17のチャティーノ語の音韻的な声調を捉えるように設計されていて、本当によくできています。チャティーノ語の諸変種の多様性にも対応できるのです。」

これらの声調記号は 上付き文字 で書かれ、音節の末尾に大文字で小さく、上付きで配置されます。

Alt: チャティーノ語で書かれた本の写真。本は見開きの状態となっている。各ページの上部には、チャティーノ語の文章が2~3行書かれている。文章の下には、背の高いトウモロコシの茎と2人の人物のカラフルな絵がある。左の人物は、帽子をかぶった男性で、トウモロコシの穂を手に持ち、肩に袋を掛けている。右の人物は、長い三つ編みを2本にした女性で、トウモロコシの入ったかごを運んでいる。

写真提供:マルセロ・シマダモーレ

クルス博士とチャティーノ語コミュニティ出身の言語学者たちの取り組みによって、チャティーノ語話者の感覚やニーズに合った表記法が考案されました。しかし、共通の標準的な表記法を作ることは、問題解決の一部にすぎません。

新しい表記法をコミュニティの手に届ける

「今でも教育機関は、子どもたちに(スペイン語のような)『標準語』を身につけることを強いています」とクルス博士は言います。「企業もそうです。いずれも、これらの少数言語の存在を認めていないのです。」

最近、クルス博士はチャティーノの人々の読み書き能力や言語への誇りを育むために、チャティーノ語で子ども向けの本を書いていますが、その本をチャティーノの子どもたちの手に届けるのは簡単ではありませんでした。

「メキシコでは、今も授業で使われる公式の言語はスペイン語だけです」とクルス博士は説明します。「私たちは教育制度の外で活動を広めており、我々の表記法で読み書きができるチャティーノ語話者は着実に増えています。それでもなお、Amazonは、この表記法が自社のシステムに入っていないという理由で、我々の本の出版を拒否しています。では、彼らのシステムに入っているのはどんな言語でしょうか?もちろんヨーロッパの言語です。」

クルス博士の本に収められている物語は、チャティーノ語のさまざまな声調のグループを中心に展開しています。英語の韻を学ぶための絵本が音で遊ぶように、子どもはもちろん、大人でも言語を楽しめるようになっているのです。上の画像では、左ページの多くの単語に「E」の上付き文字が付き、すべて同じ声調の種類に属していることを示しています。

「音調で遊ぶことによって、子どもたちは楽に学ぶことができるのです」とクルス博士は言います。「私が最初の本をコミュニティで披露したときも、子どもたちはすんなりと理解し、あっという間に覚えてしまいました!」

これらのチャティーノ語の本には、オアハカで出版されている他の子供向けの本とは異なる特徴があります。

チャティーノ語の本の見開きの写真。両ページにはカラフルな緑と青のイラストが描かれており、左側には森の中の水中にいる海の生き物が、右側にはその生き物が水から出て空中にいて、風があたり一面に吹いている様子が描かれている。左ページにはチャティーノ語の4行のテキストがある。

写真提供:マルセロ・シマダモーレ

「スペイン語での翻訳は付けませんでした」とクルス博士は付け加えました。「先住民言語で出版されている読み物の多くは、先住民言語と(スペイン語をはじめとする)主要言語の2言語併記になっています。しかし、私の経験から言えば、2言語で併記された本を手にすると、どうしても自分が知っている文字ばかりを読んでしまうのが人の習性です。」その結果、スペイン語のような、既に知っている文字が隣にあると、チャティーノ語や他のメキシコの先住民言語には十分な注意を払うことができなくなります。「もう一方の文字はデザインの一部のように見えてしまって、そのまま先に進んでしまうのです。」

コミュニティ主導の表記法

コミュニティが自らの言語を表記する方法には、その言語や文化への理解、そしてその歴史や外部からの影響がすべて深く反映されています。これは、チャティーノ語だけでなく、ハイチ・クレオール語韓国語をはじめ、多くの言語で言えることです。

クルス博士のチャティーノ語の本は、ルイビル大学の ThinkIRダートマス・デジタル・コモンズで無料で読むことができます。また、クルス博士は GoFundMe の募金を通じてこのプロジェクトへの支援を続けています。