「Duolingoへの質問」へようこそ。このコラムでは言語学習者へのアドバイスを紹介します。過去の記事はこちらをご覧ください。
こんにちは!今回の「Duolingoへの質問」は、私オリビア・セイヤーが担当します。私は歴史言語学修士、つまり言語の歴史の専門家で、世界の言語の類似点や相違点、各言語の特徴や独自性、その言語が時代と共にどのように変化してきたかなどについて説明するのが得意です。そこで今回は、世界中の言語がどのような親戚関係にあるか(これを専門用語で「語族」と言います)についてお話したいと思います🌍
今週の質問

「語族」とは?
言語の「語族」とは、同じ「祖語」から生まれたとされている言語のグループ(時には、複数の言語群を包括するより大きなグループ)のことです。「祖語」とはいわば「言語の先祖」のことです。今日の言語は、この「祖語」が時代と共に変化し、多くの場合、民族の移動や植民地化によって1つの言語グループが複数に分かれたり、異なった場所でそれぞれ別に発達した複数の言語グループが接触し影響し合ったりすることによって成立しました。
それにしても、言語間の「血縁関係」を、DNA鑑定のように確実に確かめる方法は存在するのでしょうか?結論から言えば...ありません!血縁探しで有力な方法としては、昔の言語がどのような形であったかを調べて比較するという方法がありますが、すべての言語に筆記による記録が残っているわけではなく、たとえ残っていても保存状態が良いとは限りません。さらに言語というものは必ず、話し言葉や身振り手振りから始まり、文字を使って書く習慣は後になってから発生するものです。かつての言語の姿がわかる文書が残っていなければ、数世紀前の語彙や文法を知ったり、昔の発音を推定したりすることができず、その言語の家系図の解明も困難を極めるというわけです。
特にクレオール言語(異なる言語を話す人々の間で意思疎通のために自然に出来上がった簡易的な言語が、話者の子供たちの世代で母語として話されるようになったもの)の場合は特定がより困難です。なぜなら、これらの言語の発生や進化の過程は千差万別であるため、既存の言語学的な分類法の枠には収まってくれないからです(とはいえ、このような言語は、言語の可能性について多くのことを教えてくれるのも事実です!)。また手話についても同様の問題があり、世界には数百種類もの手話が存在し、複数の手話がお互いにつながりを持ち語族を形成していることもあれば、まったく新しい言語として誕生したものもあります!
したがって語族の分類は必ずしも明確ではなく、すべての言語学者が合意しているというわけでもありません(後で挙げる例でも、学者の間で意見が分かれるものが多くあります)。これは、研究に使える昔のデータが限られていたり、また何をもって言語とし、何をもって方言とするかという問題自体で意見が分かれてしまったりという、諸々の事情も影響しています。また、仮に1つや2つの語族について全員の合意が取れたとしても、世界には何百種類もの語族が存在し、そのどれにも興味深い点がありすぎて、意見をすり合わせることなど不可能です! 🤓
とはいえ前置きはほどほどにしておきましょう...それではこれから、世界の主要語族22種類と、その語族の言語が使われている主な地域、そしてその語族に属する言語の推定数(過去にはもっと多かった可能性もあれば少なかった可能性もあります!)をご紹介していきます!
1. トゥピ語族
2. ケチュア語族
3. アイマラ語族
4. アラワク語族
5. オト・マンゲ語族
6. ユト・アステカ語族
7. マヤ語族
8. インド・ヨーロッパ語族
9. ニジェール・コンゴ語族
10. アフロ・アジア語族
11. オーストロネシア語族
12. コエ・クワディ語族
13. テュルク語族
14. カルトヴェリ語族
15. モンゴル語族
16. シナ・チベット語族
17. ドラヴィダ語族
18. 日琉語族
19. クラ・ダイ語族
20. 朝鮮語族
21. トランス・ニューギニア語族
22. パマ・ニュンガン語族
世界の主要語族
1. トゥピ語族
この言語が使われている主な地域:ブラジル、ボリビア、パラグアイ、ウルグアイ
この語族に属する言語の数:約70種類
ミニ知識:トゥピ語族の言語であるグアラニー語は、パラグアイでスペイン語と並び公用語とされています。またボリビアでは、39種類の公用語のうち、グアラニー語、Guarasu’we語 Guarayu語、Sirionó語、Tapiete語、Yuki語の6つがトゥピ語族に属しています。またトゥピ語族の言語から英語に取り入れられた語彙もあり、「jaguar(ジャガー)」「petunia(ペチュニア)」「tapioca(タピオカ)」などがそうです!
2. ケチュア語族
この言語が使われている主な地域:ペルー、エクアドル、ボリビア、コロンビア、アルゼンチン、チリ
この語族に属する言語の数:約40種類
ミニ知識:ケチュア語族の言語の多くには「私たち」に相当する言葉が2つあり、「包括形」と「除外形」を区別します。会話の相手を含める、つまり「私とあなた(あなた方)」を指すのが「包括形」で、会話の相手を除外する、つまり「私と、あなたではない誰か」を指すのが「除外形」です。つまり「私たち、今からアンデス山脈にハイキングに行くのよ」と言われたら、荷物をまとめるべきか、はがきが届くのを待つべきかが即座にわかるということです!
3. アイマラ語族
この言語が使われている主な地域:ボリビア、ペルー、チリ、アルゼンチン
この語族に属する言語の数:約3種類
ミニ知識:アイマラ語とケチュア語には共通する語彙が非常に多いため、両者をひとつの語族とみなす言語学者もいます。しかし、この2つはアンデス山脈一帯でもっとも広く普及している先住民族の言語であるため、この類似性は何世紀にもわたる接触の結果に過ぎず、お互いに単語や文法を貸し借りしただけだという説もあります。
4. アラワク語族
この言語が使われている主な地域:南米のアマゾン地域(仏領ギアナ、スリナム、ガイアナ、ベネズエラ、コロンビア、ペルー、ブラジル、ボリビアなど)
この語族に属する言語の数:約40種類
ミニ知識:アラワク諸語が使われている地域は非常に広く、ヨーロッパによる植民地化以前に交易のための共通語として発達し、南米全土に広まったという仮説を立てる言語学者もいます。英語の「hurricane(ハリケーン)」「barbecue(バーベキュー)」「tabacco(タバコ)」の語源はすべて、かつて広く使われていたアラワク語族のタイノ語(残念ながら現在は絶滅してしまいましたが)だと考えられています。
5. オト・マンゲ語族
この言語が使われている主な地域:メキシコ(特にオアハカ州)
この語族に属する言語の数:約180種類
ミニ知識:オト・マンゲ語族の言語はすべて、「声調言語」です!つまり、中国語のように、声の高さ(高い、低い、上がり調子、下がり調子、一定しているなど)が、単語を構成する個々の子音や母音と同じように、単語の意味を決定する重要な要素となります。
6. ユト・アステカ語族
この言語が使われている主な地域:アメリカ合衆国、メキシコ
この語族に属する言語の数:約60種類
ミニ知識:この記事をお読みの皆さんは、語族名の多くが2つの単語から構成されていることにお気づきかもしれません!語族名は、その系統の中で最も特徴の異なる2つの言語の名前を取って名付けられることが多いのです。ユト・アステカ語族という名称は、米国ユタ州の名前の由来となったユテ語と、メキシコで話されていたアステカ語(ナワトル語)にちなんでいます。ユト・アステカ語族の言語の大部分はナワトル語群に属し、テノチティトラン(現在のメキシコシティ)を築いた人々が話していたのはこれらの言語でした。
7. マヤ語族
この言語が使われている主な地域:メキシコ、グアテマラ、ベリーズ、ホンジュラス、エルサルバドル
この語族に属する言語の数:約30種類
ミニ知識:今日、マヤ語はラテン文字(英語のアルファベット)で書かれていることがほとんどです。しかしヨーロッパによって植民地化されるまで、マヤ語は独自の表語文字を持ち、細かくて複雑な絵文字が使って単語や音節を表していました。このマヤ文字はメソアメリカで最初の文字システムだった可能性があり、言語学者たちはいまだに、その解読に取り組んでいます!
8. インド・ヨーロッパ語族
この言語が使われている主な地域:世界中です!インド・ヨーロッパ語族の歴史的分布は、インド北部からヨーロッパ西部(イギリス諸島とアイスランドを含む)までと考えられています。しかし今日では、この語族の言語はあらゆる大陸に拡散し、何億人もの人がこれを使っています。
この語族に属する言語の数:約400種類
ミニ知識:インド・ヨーロッパ語族は、多数の小グループ(語派や語群と呼ばれています)に枝分かれしており、ヒンディー語・ベンガル語などのインド語群、ペルシャ語・パシュトゥー語・クルド語などのイラン語群、英語・ドイツ語・オランダ語などのゲルマン諸語、スペイン語、フランス語、ポルトガル語などのロマンス諸語などがあります。
9. ニジェール・コンゴ語族
この言語が使われている主な地域:アフリカ(西アフリカから東の「アフリカの角」にかけて、また南端は南アフリカ共和国までの一帯)
この語族に属する言語の数:約1,400種類
ミニ知識:ニジェール・コンゴ語族は、話者数、言語数、地理的規模のいずれにおいても世界最大級の語族であり、主にバントゥー諸語(スワヒリ語やズールー語など。どちらもDuolingoで学べます!)と非バントゥー諸語(ナイジェリアを中心に話されているヨルバ語やイボ語など)に分けることができます。
10. アフロ・アジア語族
この言語が使われている主な地域:北アフリカ、東アフリカから南西アジア・中央アジアのウズベキスタンにかけての一帯
この語族に属する言語の数:約400種類
ミニ知識:アフロ・アジア語族は、話者数ではインド・ヨーロッパ語族、シナ・チベット語族、ニジェール・コンゴ語族に次いで世界で4番目に大きいと推定されています。この語族はさらにベルベル語派・チャド語派・クシ語派・エジプト語派・オモ語派・セム語派に分類されますが、それぞれの語派にいくつの言語が含まれているかを数えるのはほとんど不可能です。たとえばアラビア語(セム語派)には何十もの方言があり、お互いに明らかに親戚関係にあるにもかかわらず、ある方言の話者が別の方言をほとんど理解できなかったりすることもあります。
11. オーストロネシア語族
この言語が使われている主な地域:東南アジア、および太平洋・インド洋の島々(マダガスカルからニュージーランドまで)
この語族に属する言語の数:約1,200種類
ミニ知識 :ニジェール・コンゴ語族に次ぐ大きな語族がオーストロネシア語族で、この2つは、それぞれが世界の言語のおよそ5分の1を占めています!この語族の言語の大部分はマレー・ポリネシア語派に属し、よく知られているものにはマダガスカル語、インドネシア語、ジャワ語、タガログ語(フィリピン)、フィジー語、ハワイ語、マオリ語(ニュージーランド)があります。
12. コエ・クワディ語族
この言語が使われている主な地域:南部アフリカ
この語族に属する言語の数:約10種類
ミニ知識:「コエ・クワディ諸語?何それ?」という方でも、吸着音(舌を打ち鳴らす音)を持つ言語のは話は聞いたことがあるかもしれません。実はこの語族は、言語学上とても重要なグループなのです。同じアフリカの別の語族に属するバントゥー諸語にも吸着音がありますが、これがコエ・クワディ諸語の影響であるという説もあります!吸着音はアフリカ以外の地域ではほとんど見られない特徴であり、言語学者にとって注目に値するテーマであり、かつてニジェール・コンゴ語族以外の言語はすべて、「吸着音がある」という理由だけでこの語族に放り込まれていたほどです!
13. テュルク語族
この言語が使われている主な地域:トルコからシベリアにかけてのユーラシア大陸一帯
この語族に属する言語の数:約40種類
ミニ知識:テュルク語族(Turkic)という名前はトルコ(Turky)と非常に似ており、その名の通りテュルク語族で最も広く話されている言語がトルコ語です。テュルク語族にはウズベク語・アゼルバイジャン語・カザフ語・ウイグル語などもあります。この語族の言語は地理的に広く分布しているため、他の語族からも多くの単語を取り入れてきました。たとえばトルコ語はアラビア語の影響を、またヤクート諸語(シベリア)はモンゴル語の影響を強く受けています。
14. カルトヴェリ語族
この言語が使われている主な地域:ジョージア
この語族に属する言語の数:約4種類
ミニ知識:グルジア語をはじめとするカルトヴェリ諸語では、どの言語でもグルジア文字を使います。グルジア文字には3つの文字体系があり、現在ではムヘドルリと呼ばれる文字を使うことがほとんどですが、そのほかに、アソムタヴルリおよびヌスフリと呼ばれる、古文書や宗教関連の文章で使われている文字が存在します。これらの文字の起源には謎が多く、世界の他の文字体系との関係も解明されていません!
15. モンゴル語族
この言語が使われている主な地域:モンゴルおよびロシア、中国、アフガニスタンの一部
この語族に属する言語の数:約10種類
ミニ知識: モンゴル語を代表格とするモンゴル語族は、テュルク語族、日流語族、朝鮮語族、そして絶滅の危機に瀕しているツングース語族と共に「アルタイ語族」の中の一派として扱われることがあります。ただしこのアルタイ語族の存在は論争の的となっており、これらの言語は同一の語族ではなく「言語連合」を形成しているに過ぎないという意見もあります。「言語連合」とは、複数の異なる祖語から派生したにもかかわらず、長期にわたる接触によって特徴を共有するようになった、いわば「直接の血縁関係にはない親戚」にあたる言語群のことです。
16. シナ・チベット語族
この言語が使われている主な地域:中国、東南アジア、ヒマラヤ
この語族に属する言語の数:約500種類
ミニ知識: この語族の中で最も話者の多い中国語(シナ語派)は、はるか昔から文字を持ち、筆記による記録が多く残っています。これは言語学者にとって大変なメリットで、昔の言語を比較的容易に再現することが可能です。ただし中国語の文字は表意文字であるため、文字から発音を推測することができません。そのため、中国語の発音の変化を調べる研究は困難を極めています!
17. ドラヴィダ語族
この言語が使われている主な地域:インド南部、スリランカ、パキスタン
この語族に属する言語の数:約70種類
ミニ知識:ドラヴィダ語族の中で最も広く使われているものは、テルグ語・タミル語・カンナダ語・マラヤーラム語であり、この4つの言語はすべて、インドの複数の州で公用語として使われています!ちなみに「mango(マンゴー)」や「curry(カレー)」という日本でもおなじみの言葉は、ドラヴィダ諸語が起源です。
18. 日琉語族
この言語が使われている主な地域:日本および琉球諸島
この語族に属する言語の数:約12種類
ミニ知識:日本の言語は、日本語(およびその方言)と、日本列島の南端にある琉球列島で使われている琉球語に分けられます。日本語と琉球語の違いはかなり大きく、お互いの言うことをなんとなく理解することはできません。一方で琉球語は方言の連続体を形成していると言われています。つまり、琉球列島のすべての琉球語話者が相互に理解できるわけではありませんが、地理的に近い方言同士ならば理解できるということです。
19. クラ・ダイ語族
この言語が使われている主な地域:中国南部および東南アジア
この語族に属する言語の数:約95種類
ミニ知識:クラ・ダイ語族の言語はすべて、オト・マンゲ語族と同様に「声調言語」です!使用する文字はお互いに類似しており、たとえばタイ語とラオス語では、どちらもカンボジアのクメール文字に由来する文字体系が使われ、これらすべてが「アブギダ」という一定の母音を省略する表記法を採用しています。
20. 朝鮮語族
この言語が使われている主な地域:北朝鮮、韓国、中国東北部
この語族に属する言語の数:約2種類
ミニ知識:言語学者の中には、朝鮮語族と日琉語族は文法構造や音が似ており、したがって一つの語族を形成しているという説を唱える人もいます。しかしこれはむしろ、両言語が何世紀にもわたり接触してきた歴史による類似性と考えたほうがよさそうです。朝鮮語族の文字体系であるハングルは、口の中で音を発する位置を表すようにデザインされた「素性文字」を使っています。
21. トランス・ニューギニア語族
この言語が使われている主な地域:パプアニューギニアおよびインドネシア(主にニューギニア島とその周辺)
この語族に属する言語の数:約400種類
ミニ知識:トランス・ニューギニア語族は、言語の数では最大級の語族ですが、各言語の話者はわずか数千人です。そのほとんどがニューギニア島に集中しているため、この島は、地球上で最も言語の多様性に富んだ場所とされています!
22. パマ・ニュンガン語族
この言語が使われている主な地域:オーストラリア
この語族に属する言語の数:約300種類
ミニ知識:パマ・ニュンガンという名前は、オーストラリア北東部のグレート・バリア・リーフ付近で話されているパマ諸語と、オーストラリア南西部のパース付近で話されているニュンガン諸語に由来しています。つまり、実質的にはオーストラリア全域に分布しているわけです!オーストラリアにはこれ以外に約30種類の語族が存在しますが、これらの分布はすべて西オーストラリア州、ノーザンテリトリー、クイーンズランド州に固まっています。
言語の家系図作りには終わりがない
以上に挙げた語族は、ほんの手始めです🌍 世界には推定7,000種類もの言語があり、その全容について学ぼうと思ったら、そのうちの1つの言語をマスターするのと同じくらいの時間がかかることでしょう! さて、次はどの言語を学びましょうか?
語学に関する疑問・質問があればぜひ、dearduolingo@duolingo.comまでお寄せください!