「Duolingoへの質問」へようこそ。このコラムでは言語学習者へのアドバイスを紹介します。過去の記事はこちら1をご覧ください。
皆さん、こんにちは!先月、私は他のどんな言語にも似ていない超個性的な言語たちについての記事を書きました。今回は、「見落とされがちではあるものの、多くの言語に共通していること」、すなわち文字体系についてお話します📝
今週の質問

これは素晴らしい質問ですね!多くの人にとって、「言葉を書いてコミュニケーションをとる」ことは当たり前かもしれませんが、実は「文字」は、話し言葉よりもずっと後になって発生したものなのです。言葉を話す、またはジェスチャーで意思疎通をするという行為は、ずっと昔から存在しました。 人間は、はるか昔から様々な方法でコミュニケーションを行ってきており、「文字を書く」ということは、あくまで手段の1つにすぎません! それどころか、あなたの考えを日本語で書こうとしているときでさえ、伝えたいことを完璧に表現できないことは珍しくありません。絵文字が入っていないがために、チャットのメッセージがなんだか物足りなく感じたことはありませんか?
また、すべての言語に独自の文字体系があるわけではありませんが、だからといって、独自の文字体系を持つ言語より原始的で劣っているということにはなりません!
現在、世界には数えきれないほどの文字体系が存在しますが、実は、一見しただけでは見分けがつかないほど、お互いに似ているものも多くあります。今回の回答では、文字体系がどのように発展してきたか、そして異なる文字体系がどのようにお互いに関連しているのかに加え、あまり知られていないちょっと変わった文字体系の例をいくつかご紹介します!
目次
さまざまな文字体系はどこで生まれた?
エジプトまたは中国を起源とする文字体系
ブラーフミーを起源とする文字体系
上記の文字体系を起源としないもの
さまざまな文字体系はどこで生まれた?
文字は、古代の世界の少なくとも3つの場所で発生しました。しかし、発生時期も違えば、書くための媒体も異なります。文字の歴史の研究には、文字を書くのに使う素材が重要な鍵となります。これまで知られている最古の文字の例の多くは、石、粘土、骨などの素材に書かれた状態で発見されています。これは、これらの素材が耐久性に優れ、作成された時点から発見されるまでの長い期間、腐らず持ちこたえたからに他なりません。よって、かつて他の文字体系が世界の他の地域でも発展し、消滅したという可能性は十分にあります。なぜなら、それらが葉や樹皮などの素材に記録されていたとしたら、私たちにはそれらの存在を知る方法がないからです。
中東
現在知られている文字体系のうち、世界で最も古いものは、現在のイラクにあたる古代シュメールで始まりました。シュメール文字または楔形文字と呼ばれるこの文字は、湿った粘土板に楔形のペンを用いて刻まれました。シュメール語のほか、アッカド語、ヒッタイト語などの同地域の他の言語にも用いられましたが、いずれの言語も現在は消滅しており、楔形文字も使用されていません。
エジプトの象形文字もほぼ同時期に発達しましたが、古代エジプト人がシュメールの隣人たちから影響を受けたかどうかはわかっていません。いずれにせよ、この文字体系は時の試練に耐え、世界の多くの言語の遠い祖先となっているのです!
中国
数世紀後、中国では現在「甲骨文字」と呼ばれる文字が生まれました。「甲骨」というその名の通り、かつて王室の占い師たちは亀の甲羅や牛の骨にこの文字を刻み、熱してひび割れを生じさせ、現れた模様を解釈することで公式の予言を行っていました。すべての文字が解読されたわけではありませんが、この文字体系が現代の漢字へと発展したことは明らかであるというのが専門家の見解です!
この文字体系がいつ始まったのか、正確にはわかっていません。発掘された甲骨に刻まれている文字は非常に洗練されており、初期からこのような文字を使っていたとは考えにくいものの、それより古い例は発見されていないのが現状です。
メソアメリカ
古代メソアメリカ文明の一部(マヤ、オルメカ、サポテカなど)は、独自の文字体系を発展させていました。この地域における文字の使用はおそらく一つの集団から始まり、そこから広がったと考えられています。ただし、どの集団が最初に文字を使い始めたかはわかっていません。 この地域の文字の中で解読が最も進んでいるのはマヤ文字ですが、これについては、部分的に音節文字(日本のひらがなのように、1文字が1音節を表す文字)であり、部分的に表意文字(漢字のように、文字自体が事物や概念を表す文字)であったことが判明しています。ある意味日本語によく似ているものの、彼らは10進法ではなく、20進法を基にした数の数え方を使っていました!
マヤ文字の遺物の多くは石に刻まれているため、今でも残っています。しかしこの文字体系は、16世紀から17世紀にかけ、ヨーロッパからの入植者や宣教師によって強制的に廃止されてしまいました。現在も多くのマヤ諸語が現存していますが、文字を書く時には通常、英語と同様のラテン文字が使われています。

エジプトまたは中国を起源とする文字体系
最古の文字体系がどこで生まれたかがわかったところで、次は現代の文字体系を見てみましょう! 世界で最もよく知られ、広く普及している文字体系の多くは、エジプトや中国で生まれた文字体系の子孫なのです。
エジプトの象形文字を起源とする文字体系
| 文字体系 | 文章を書くとこうなる | 説明 |
|---|---|---|
| ラテン文字 | the Latin alphabet | ラテン文字は、ロマンス語族、ゲルマン語族、および一部のスラヴ語族を含む多くのインド・ヨーロッパ語族の言語の表記に用いられています。 |
| キリル文字 | українська абетка | キリル文字は、ロシア語、ウクライナ語、セルビア語をはじめとする多くのスラヴ語族の言語、ならびにチュルク語族の言語などの表記に用いられています。 |
| ギリシャ文字 | το ελληνικό αλφάβητο | ラテン文字とキリル文字には、ギリシャ文字の古い形に由来するものが多くあります! |
| ベトナム語の文字 | chữ viết tiếng Việt | ベトナム語のアルファベットは、ラテン文字を基に多くのアクセント記号が追加されており(ポルトガルの宣教師によって考案されたシステム)、これがベトナム語特有の特徴となっています。「ă」「â」「đ」「ê」「ô」「ơ」「ư」は独立した文字とみなされ、一方、「à」「á」「ả」「ã」「ạ」に付加されたアクセント記号は、声調を区別するために用いられます。 |
| アラビア文字 | الأبجدية العربية | アラビア文字とヘブライ文字の見た目は大きく異なりますが、互いに密接に関連しています。どちらも「アブジャド」に分類される表音文字であり、どちらもアフロ・アジア語族に属するセム諸語を表記するのに用いられています! |
| ヘブライ文字 | אלפבית עברי | |
| ゲエズ語の文字 | የኣማርኛ ፊደል | セム諸語の中にはゲエズ文字を使うものもあり、たとえばアムハラ語やティグリニャ語など、主に東アフリカで話されているセム語族の言語がこれにあたります。ゲエズ文字は「アブギダ」という文字体系に属し、アラビア語やヘブライ語とは違って、(ラテン文字と同様に)左から右へと書きます。 |
中国の甲骨文字を起源とする文字体系
| 文字体系 | 文章を書くとこうなる | 説明 |
|---|---|---|
| 中国の漢字 | 汉字书写系统 | 漢字は中国語の様々な方言で使われるだけでなく、同じ表意文字が日本語でも使われています!日本の漢字は、中国の漢字から直接借用されたものです。 |
| 日本の漢字 | 文字体系 | |
| 日本のひらがな | ひらがな | ひらがな・カタカナと漢字は見た目が大きく異なり、用途にも区別がありますが、実は祖先が同じです。ひらがなもカタカナも、古代の日本で日本語の音を表すために借用していた一連の漢字(万葉仮名など)が形を変え、音節文字として定着したものです! |
| 日本のカタカナ | カタカナ |
ブラーフミーを起源とする文字体系
南アジアおよび東南アジアのいくつかの言語は、ブラーフミー文字から発展した文字体系を持っています。このブラーフミー文字については、アラム文字(ヘブライ文字やアラビア文字など、多くのセム系文字に影響を与えた文字体系)から派生したとする説や、独立して発生したとする説などがあり、その起源はよくわかっていません。ブラーフミー文字を起源とする文字体系には、以下のものがあります。
| 文字体系 | 文章を書くとこうなる | 説明 |
|---|---|---|
| デーヴァナーガリー文字 | देवनागरी | これらの文字体系はすべて、主にインドやスリランカで話されているインド・ヨーロッパ語族およびドラヴィダ語族の言語に用いられています。デーヴァナーガリー文字はヒンディー語をはじめとする複数の南アジア言語で使われており、その他の文字体系はそれぞれ、グジャラート語、タミル語、テルグ語、カンナダ語、マラヤーラム語、シンハラ語で主に使用されています。 |
| グジャラート文字 | ગુજરાતી લિપિ | |
| タミール文字 | தமிழ் அரிச்சுவடி | |
| テルグ文字 | తెలుగు లిపి | |
| カナラ文字 | ಕನ್ನಡ ಅಕ್ಷರಮಾಲೆ | |
| マラヤーラム文字 | മലയാളലിപി | |
| シンハラ文字 | සිංහල අක්ෂර මාලාව | |
| チベット文字 | དབྱངས་གསལ་ | チベット文字(「アブギダ」に分類される)は、チベット語だけでなく、ブータンの公用語であるゾンカ語をはじめとする、多くのチベット諸語の表記に用いられています。 |
| クメール文字 | អក្សរខ្មែរ | タイ文字とラオス文字はどちらも、より古代のクメール文字を起源とし独自に発展したものです! |
| タイ文字 | อักษรไทย | |
| ラオス文字 | ອັກສອນລາວ |
上記の文字体系を起源としないもの
これまでに挙げたものとは異なり、次の文字体系は、現在知られている文字体系の影響をほとんど(あるいはまったく)受けていません。いずれの場合も、文字体系が存在しなかった言語や、外来の文字体系を使っていた言語の話者によって、固有の文字体系として発明されたものです。以下の例にみられるように、自国の言語に大きな貢献をしたのは、必ずしも高名な言語学者であったわけではなく、ごく普通の人が文字体系を発明したケースもあるのです!
| 文字体系 | 文章を書くとこうなる | 説明 |
|---|---|---|
| ハングル | 한국어 공식 문자 | ハングルは、1400年代に韓国の王が、それまで韓国語を書くのに使われていた漢字に代わる韓国独自の文字体系を作るため、作成させたものです。各文字が、相当する音を発声する口の中の場所を示すようにデザインされており、このような種類の文字は音素的特徴文字と呼ばれます。 |
| チェロキー音節文字 | ᏣᎳᎩ ᎦᏬᏂᎯᏍᏗ | チェロキー文字も音節文字の一種では、19世紀にセコイアというチェロキー族の男性によって開発されました。セコイアはチェロキー語しか話せず、どんな言語の読み書きも知らない非識字者でした。それにもかかわらず彼はチェロキー語の文字体系を発明し、その後20年でチェロキー族の識字率はほぼ100%に達しました。 |
| イヌクテ ィトゥット音節文字およびその他のカナダ先住民音節文字 |
ᖃᓂᐅᔮᖅᐸᐃᑦ | カナダの多くの先住民言語、たとえばイヌクティトゥット語、クリー語、オジブワ語などは、「カナダ先住民音節文字」と呼ばれる文字体系を用いています。この文字体系は、チェロキー文字の成功に触発され発明されました。各文字は子音を表し、文字の向きによって対となる母音の種類を表します。たとえば、ᔭは「ja」の音を表し、ᔨは「ji」、ᔪは「ju」の音を表します。一方、ᕙは「va」、ᕕは「vi」、ᕗは「vu」の音となります。 |
| アドラム文字 | 𞤀𞤣𞤤𞤢𞤥 𞤆𞤵𞤤𞤢𞤪 | この文字体系は、ギニア人の2人の兄弟、イブラヒマ・バリーとアブドゥライ・バリーによって、彼らの母語であるフラニ語を正確に表すための独自の表記法として発明されました。それまで、フラニ語(フラ語、フルフルデ語、またはプラール語としても知られる)は、アラビア文字を使って書かれていました。1989年に、彼らはわずか10歳と14歳で、アドラム文字を開発したのです! |
文字は言語の至宝
はるか昔にできた文字体系は、それを使う言語と共に、形を変えながら>大きく進化してきました。言語は常に変化するものであり、話者の実用的・文化的な、そして時には芸術的なニーズを満たすため、文字体系も洗練されていったのです。文字という存在は、世界の言語の驚くべき多様性を垣間見せてくれます。母語のものとはまったく違う、新たな文字体系を学ぶことで、想像もしなかった新しい世界が開けるかもしれません。
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