英語は世界各国で使われ、英語を話す人口は15億人以上に上ります。そ⁠の⁠⁠た⁠⁠め⁠、数えきれないほどの方言や訛りがあります。ある言語が、特定の場所(国、地域、都市など)で、その場所に特有の方法で話されている場合、それを地域方言と呼びます。そこでは他にはない語彙や独特の発音が用いられ、さらには文法や会話のルールも異なることがあります。

それでは今から、世界で話されている英語の地域方言を6つ、ご紹介しましょう。

アメリカ英語
イギリス英語
インド英語
シンガポール英語
ジャマイカ英語
ナイジェリア英語

アメリカ英語

アメリカ英語は、ハリウッド映画やポップミュージックを通じて世界中でよく知られています。また、米国の大学は世界各国の留学生を積極的に受け入れているため、これもアメリカ英語の普及の一因となっています。同じ米国内でも地域ごとに異なりますが、大まかに言えば次のような共通点がみられます。

  • 発音: 単語の途中にある「t」が「d」に近い音で発音されることがよくあります。たとえばバター「butter」は[budder(バダー)]、そして水「water」は[wadder(ワダー)]のように聞こえます。
  • 文法: 過去の動作を表現するのに単純過去形(例:「ate(食べた)」「saw(見た)」)を使用することが多く、他の方言の話者であれば現在完了形(例:「have eaten」「have seen」)を用いるような状況でも、単純過去形を使う傾向があります。たとえば、「夕食を食べたばかりだ」は、米国では「I've just eaten dinner」だけでなく、「I just ate dinner」と言うことも一般的です。 同様に、「もうご飯食べた?」と聞くときには「Have you eaten yet?」の代わりに「Did you eat yet?」がよく使われ、さらに、Duolingo本社のあるピッツバーグの住人ならばこれが訛って[Jeet yet?(ジィート イェット)]という発音になります!
  • 語彙: 米国で「ここにJohn Hancockをお願いします」と言われたら、「ここにサインしてください」の意味です。おなじみのスポーツ、サッカーを「soccer」と呼ぶのは英語圏では米国のみ、その他の国では「football」です。さらに建物でも、日本の1階は米国でも「first floor(1階)」と呼びますが、それ以外の国では「ground floor(地階)」と呼ぶのが一般的です。では、米国の2階は英国では何階にあたるでしょう?...そうです、「first floor(1階)」です!

イギリス英語

イギリス英語は英国で話されている地域方言であり、アメリカ英語と並んで、世界中の学習者が勉強している言語の一つです。また、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカをはじめとするイギリス連邦諸国の英語も、これに似ています。

  • 発音:「r」は通常、その直後に母音がある場合にのみ、発音します。「park(公園)」や「car(車)」のような単語の「r」は、アメリカ英語では明瞭に聞こえますが、イギリス英語ではほとんど聞こえません。そのせいで、イギリス英語は他の方言よりも母音を長く引っ張る印象を与えることがあります。
  • 文法:「team(チーム)」や「government(政府)」などの人の集団を表す名詞は、名詞自体が単数形であったとしても、通常は複数形の動詞を使います。イギリス英語では、「The government are making new laws(政府は新しい法律を作っている)」、「Our team are winning(私たちのチームが勝っている)」と言います。
  • 語彙: たとえば、ズボンは英国では「trousers」、米国では「pants」と呼ばれ、同様におむつは「nappy(英)」「diaper(米)」、車のボンネットは「bonnet(英)」「hood(米)」、エレベーターは「lift(英)」「elevator(米)」、スニーカーは「trainers(英)」「sneakers(米)」、そしてガソリンは「petrol(英)」「gas(米)」となります。

インド英語

英語はインドで22ある公用語の一つです(ただし、インド全国で話されている言語は100以上もあります)。インドにおける英語話者の数は1億2,500万人を超えると言われ、世界有数の英語使用国となっています。時には、お互いの言語を知らない人どうしで、英語を共通語として使うこともあります。英語は高等教育で広く使用され、法律や契約においても公式の言語となっています。

  • 発音: インド英語は、他の方言とはかなり異なるリズムを持つことで有名です。特に子音が独特で、たとえば「w」は「v」のように発音されることが多いため、ワイン「wine」が[vine(ヴァイン)]のように聞こえます。また、一般的にインドで「p」の発音は、強く吹き出す音ではありません。他の英語方言の話者であれば「p」の音を発音する際、溜めた息を解放するので[プッ]という音になります(口の前に手を置いて発音すると、空気の圧を感じることができます)。一方インド英語ではこのような発声法を用いることがほとんどないため、「p」の音が他の英語方言とかなり違います。
  • 語彙: ヒンディー語をはじめとするインドの諸言語には、家族や親戚を表す言葉が豊富にあります。そのためインド英語では、家族に関する特有の言い回しが発達しています。たとえば、他の英語で「cousin(いとこ)」は男性・女性のいずれにも使用しますが、インドでは男性のいとこを「cousin brother」、女性のいとこを「cousin sister」と表現し区別します。その他にも、インド英語だけの用法を持つ単語や熟語が数多く存在します。「trial room」は裁判所ではなく、店内で服を試着する試着室を指し、名詞「pain(痛み)」は動詞としても使われ、頭痛を「My head is paining(私の頭が痛む)」と表現します。そして「passing out」は、気を失うことではなく、学校を卒業したという意味で使われます!

シンガポール英語

シンガポールは多民族・多言語の国で、英語はその4つの主要言語のうちの一つです。また、英語とシンガポールの他の主要言語が混成したクレオール語「シングリッシュ」も、広く使われています。シンガポール人のほぼ半数が、家庭で第一言語として英語を使用しており、家の外で英語を学ぶ人も合わせれば相当の割合となります。なおシンガポールの学校では、主に英語が使われます。シンガポールにいると、シンガポール英語やシングリッシュの次の特徴に気づくことでしょう。

  • 発音:「th」の発音が少し変わっていて、他の英語方言では上の歯に舌を軽く添えて発音されますが、シンガポール英語では舌を歯に当てない「d」や「t」のように聞こえるのが特徴です。例えば、接続詞「though」は[dough(ドウ)]のように、そして「thing」が[ting(ティング)]のように聞こえることがあります。
  • 文法: シンガポール英語では動詞の語尾が簡略化されることがよくあり、「He never go there」のように三人称単数の「-s」を省略する人も多くいます。 また、冠詞の「the」や「a」をつける・つけないのルールが異なり、「I want to get new car」のような表現もしばしば耳にします。(注:他の英語では通常「new car」の前に「a」をつけます。)
  • 語彙: 話者が驚いたり混乱したりしている場合、そのニュアンスを伝えるために、[lah(ラー)][ah(アー)][meh(メー)]などの間投詞を付け加えます。たとえば、素晴らしい写真を撮ったばかりの人は「This is Insta-worthy siah!」と言ったりします。あえて日本語に訳すなら「これはインスタ映えするぞー!」というところでしょうか。

ジャマイカ英語

ジャマイカの公用語は英語ですが、そのほかにジャマイカ・クレオール語(英語と、アカン語などの西アフリカ言語が混ざり発展した独自の言語)も広く話されています。他の地域方言と同様に、ジャマイカ英語にも独特の特徴やルールが数多く存在します。

  • 発音: 多くの単語が、母音の前に「w」または「y」の音を付けて発音されます。たとえば「boy」は[bwoy(ブォイ)]、「girl」は[gyal(ギャル)]などです。また、ジャマイカ英語特有の音の組み合わせルールがあり、子音の数を減らすなどして単語を簡略化、特に末尾の子音を除去することが多くあります。代表的な例は、[fren(フレン)]=「friend」、[juss(ジャス)]=「just」、そして[sumem(サメン)]=「something」などです。
  • 語彙: ジャマイカ英語での代表的な挨拶は「Wah gwaan[ワー グァーン]?」。これは「How are you?」を意味します。二人称複数の代名詞「you」は「unuh[ウヌー]」となりますが、これは米国の一部地域の方言「y'all」や「yinz」にもよく似ています。

ナイジェリア英語

ナイジェリアも、英語が公用語となっている国ですが、他にも数多くの言語があり、その数は数百種類にも上ります!多くのナイジェリア人は母語と英語の両方を話し、他の言語を母語とする人とのコミュニケーションに英語を使用します。ナイジェリア人の約53%(1億人以上!)が英語を話すため、ナイジェリアは世界でもっとも英語話者の多い国の一つとなっています。

  • 発音: ナイジェリアでは、英語の母音の種類が他の国と異なり、もともと発音が違う2つの単語が、同一の発音となることがあります。たとえば、他の英語方言では「chip」と「cheap」は[チップ]と[チープ]となりますが、ナイジェリア英語では同じ発音となります!
  • 文法: ナイジェリア英語は、多言語話者やナイジェリアの先住民族の言語の影響も受けています。これらの他言語から生じた文法上の特徴の一つとして、不可算名詞でも複数形をとります。たとえば、通常は不可算とされている「advice」が、「My friend gave me some good advices(私の友人が良いアドバイスをくれた)」のように、複数形「advices」で使用されます。また、主語に関しても独自の文法があり、「Me I am happy」のように主語が2つ置かれることもあれば(ちなみにフランス語にも似た用法があります)、「Is because she is a new student(彼女は新入生だからだ)」のように主語が省略されてしまうこともあります。

身近な環境で聞く英語を、じっくり観察してみましょう!

どの方言が一番正しい英語でしょうか?その答えは「どの英語方言も、正しい英語ということはありません!」です。そして方言の一つひとつが、それを話す人の出身地、社会、アイデンティティなどの特性を反映したものです。

また、特定の方言を学ぶのは、留学の予定、仕事の環境、お気に入りの旅行先など、人それぞれに理由があると思います。

こういった個性豊かな英語の醍醐味を味わうには、その場所で放送されているテレビドラマや音楽に触れるのが一番です。たとえば、私は今、Netflixで『Eternally Confused and Eager for Love(邦題:愛に惑い、愛に焦がれて)』を見終わったところですが、これはインド英語を学ぶ上で非常に有意義な経験となりました。また、英国のNetflixシリーズ『Heartstopper(邦題:ハートストッパー)』は、生きたイギリス英語に触れる絶好の機会です。そしてぜひ、実際に地域の文化に飛び込み、人々と触れ合ってみましょう。これが、最も楽しく有効な方言の学習法です!